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【AALTO BLOG】それでも、グローバルブランディングに取り組む理由
<このブログは、Aalto International CEO 福井執筆 AALTO BLOGより抜粋したものです>
今から6年前、起業して間もない私は、東京にある大手電機メーカーの会議室で、責任者を含む5名の前で、スライドを進める指と声を震わせながら、海外向けのPRについて提案していた。会議室に入った瞬間からの疑い深い視線を、できるだけ見て見ぬ振りし、気づかないように、負けないように、全力で動き、考え抜いた提案に集中することに必死だった。
起業して6年経って考えてみれば、クライアントの皆様に、とても大きなチャレンジの機会をいただいてきた。あの頃の私は、理想論の提案が先行し、企業側のリソースや、体制、スキルセットなど、考える余裕も正直なく、未熟だった。
これまで、様々なプロジェクトを通して、クライアント企業にもメディアにも、時には寛容に、時には厳しく、成長の機会をもらって、育ててもらってきた。『これからはグローバルに存在感を確立していかなければいけない』という経営層の考えも、起業して間もないAaltoの成長の追い風になったこと、PRプラットフォームの日本展開を担当していたこともあり、海外のメディアの情報やネットワークが集まる輪の中にいたことが、この数年間のAaltoの基盤を創り上げてきた。
企業と海外の間にAaltoが存在する
私がAaltoを通して取り組んでいることは『企業のブランド認知、理解浸透をグローバルで拡大すること』
グローバルブランディングに取り組んだ結果、海外における事業活動を支え、その企業の事業や製品の海外市場での展開を促進することであり、ひいては、企業が世界に生み出す価値をもたらしていく一助になることだ。
そのためには、
・まず企業の経営戦略から、企業の向かっている方向と、企業の根っこにある強みや特長を把握する。
・次に『それをどうやって伝えるか』コミュニケーションの対象の海外市場や対象の人々を分析し、限られたリソースの中で何ができるかを考える。
・企業のブランディング担当チームとともに、その企業の場合の最適な手段は何かを選択し、伝える内容や、海外市場のしかるべき人たちに、伝え、それがどうだったかまで分析して、またアクションしていく。「長期視点で目標を立て、今、何をすべきか」という戦略面でチームに入る。
実務に落とし込むと、
・経営ビジョンに基づいたブランド戦略構築
・年間の海外コミュニケーション戦略
・海外広告戦略と選定、予算配分、パートナー選定
・コンテンツ戦略
・海外メディアリレーション戦略
・海外展示会を活用した情報発信
などが私たちの担当領域だ。
私たちの存在価値は、海外の技術業界と日本企業側に両足を突っ込んでいることで、両視点を持つことができていること。
私自身は、エンジニアではないが、業界の情報収集において、世界にいる味方にお世話になっている。業界をリードする影響力を持つ人物や、メディアの編集長などに、戦略をより確実で、現実的なものにするのに、力を貸してもらう。業界がどこに向かっていくかを把握することは欠かせない。
Aaltoはフィンランド語で「波」であり、企業と海外の間を、分け隔てなく繋ぐ、海の中の波のような役割であると、私達自身を位置付けている。
いつだって、新しいことを始めるということは、平凡な日常に、波風を立てるということから始まる。
日本においては、PRといえば、守りの広報が浸透していて、投資家やステークホルダーに伝える保守的な広報が中心にある。いかに間違えずに、情報を出しておくかだけが重要視される。
その中で、Aaltoが取り組んでいることは、攻め気味のPRであり、腰を据えて時間をかける中長期的な取り組みであり、経営者の隣で取り組む仕事でもある。
しかし、保守的な会社に、グローバルコミュニケーションの提案を持っていくと、波風は『脅威』であるとみなされてしまう。
プレゼン後、5名のうち1〜2名が『それです!絶対これに取り組む必要がある!』という意欲満々な状態になる一方、過半数の人は、不安でいっぱいの気持ちをあふれんばかりに示す。
初めてのこと、まして、海外、知らない世界のことは、何と言ってもみんなやはりわからないし、怖い。残念ながら、多数決で結局ボツになるケースも多かった。
会議中、意欲満々だった担当者の方から「ごめんなさい、福井さん。会社にとっては重要なことで絶対に必要だとわかっているけど、今の体制と考え方を突破できなかった..残念です」と電話をいただいたこともある。
それでも、取り組んでみようとなった時は、 私たちもクライアント側も含め、一緒に勇気を持った瞬間。様々な考えを持つチームメンバーの違いを超えて、共通の目的に向かう大きな挑戦への始まりでもある。
いつも新しいことの始まりは、いい意味で波風を立てることからなのだ。
『まだないもの』を信じてやり抜くこと
そんなこともありながらの6年目。女性起業家、グローバル、海外とのネットワーク..周りからは「すごいですねー」などと言われるが、そんなことは、本当に心底どうでもいい。
むしろ、私にとって重要なのは、これから企業と一緒に創っていく社会へのインパクトだけ。
毎日考えて、足を運んで、さらにもっと何かできないかと模索の日々。そして、まだまだもっと、ポテンシャルのある企業があるにもかかわらず、お手伝いできているプロジェクトが少ない事実には、自分自身に納得がいっていない。
6年間のこれまでを振り返ると、随分、新しい挑戦のコンセプトの開拓と啓蒙に時間をかけてきた。プロジェクト開始前に、全員に信じてもらえるファクトを積み上げて説明するのに、途方もない努力と期間を使ってきた。
半年、1年、2年...ざらではない。
「その躊躇している数年があったら、企業がもっと歩みを進めることができたのに」と後悔を持つことが悔しい。
企業経営において時間は貴重だ。企業にとっての挑戦への時間が減っている(後ろ倒しになっている)ことを、私はいつも残念に思っている。
私達の取り組むグローバルブランディングの取り組みは『まだないもの』を創ろうとする行為。
『まだないもの』は当然信じにくい。なんだか曖昧で、雲をつかむような話だからだ。だからといって『まだないもの』は、考えなくてよい話ではない。
企業の向かうところは、新しい市場であれ、新しい顧客であれ、新しい取引であれ、『まだないもの』を創ること。なぜなら、成長は『まだないもの』を獲得していく連続にある。
まだないものはどうしたら手に入れられるのか。『まだないもの』は、棚ぼた式には手に入らない。その描いた未来を信じて、実行していくことでしか得られない。
企業の場合、マネジメントだけではなく、企業全体で一緒に実現に向けて努力していくことで、初めて『手の中で握ることができる現実』にできる。
時間はかかるかもしれない。だが、それが成長であり、企業の発展につながっていくと信じている。全力で『まだないものが、掴めること』を信じて、創る側として努力をしていくことでしか、掴むことができない。
一方、物事はひとりの力では、進まない。元気玉のようにより多くのみんなの意志、そして行動が必要だ。
そのために私達、Aaltoがいる。
「こんな小さな若い会社にできるか?」と色々と疑われることもあったが、それでも、絶対に日本に必要だ、それに応えていくと信じて、この会社をやってきた。
スタートアップは、みんな最初はガレージ起業であって、ガレージがどこの立地に立っているか、どれだけ守られているか、すでに大きいかどうかは、全く意味がない。それよりも、ガレージの中の人が、何をまっすぐに見据えているか、それに向けて本気で全力でやりきるのかどうかの方が大事じゃないだろうか。唯一それが、いずれガレージの箱に収まりきらない事を成すことにつながるのだ。
この仕事は、時間もかかるし、やり方を変えたくない保守派も多いし、たまに心ないバッシングにも遭う。それでも『この仕事が楽しくて楽しくてたまらない』とういう、心の底から純粋な想いがある。その根っこに『技術が創る、その次の世界を見てみたい』という強い想いがあり、Aaltoを常にドライブしている。
一緒に『その先の世界』を見たいから
世界は、日々進んでいる。それは、誰かが今日より明日より良くすることを見据えて、何かに取り組み、世界を進歩させているからだ。
その何かは、技術かもしれないし、平和かもしれないし、愛かもしれないし、何かの行動かもしれない。
私にとっては、その関心が『技術』であり、自分でものは作れないけれど、技術で世界をよりよくしようとしている企業とともに、その次の世界を見てみたいと、心から思っている。
私達のメインのクライアント企業は、日本の大手部品企業や技術系の組織・大学だ。電気自動車、ロボット、産業機器、環境技術、測定技術、電子部品、海や水関係など、分野は多岐に渡るが、どれも、私にとっては、たまらなく面白い。なぜなら、その製品が、事業、それに関わる人材が、世界を一歩前に進めることのできる可能性に満ちあふれている。
これからどんな世界を創っていこうとしているのか、見つめる世界を共有して、クライアント企業と、私達で向かっていく。
『その先の世界を見てみたい』
私達は、未来を創ろうとしている企業と、これからも世界を前に進めていきたい。
最初は『まだないもの』は、その未知さゆえに、多くの人から反対されるかもしれないが、信じて、諦めないで、一歩一歩進めていくことで、それは、現実になり、そして、既成事実になる。
日本において、技術企業を支えるグローバルブランディング戦略に関わる人があまりにも少なく、育っていない現状を見ると、
偶然にも私達に与えられた、日本と海外の両軸を持つことができている機会、適性、経験、スキル、そういう役回りを与えてもらえていることには、何かの意味がある。日本において、課題を提示し、様々な障害を乗り越え、解決までリードしていくことが、実は、未来の世界から、今の私達に与えられたミッションなんじゃないか、とさえ思っている。
私達自身も、昨日より今日、常に一歩進んでいく必要がある。むしろ『まだない世界』へ進む勇気を持って、企業の人々の手を取って、勇敢にリードできる存在でありたい。
どれだけその取り組みが難しくても、ここで私達が諦めるわけにはいけない。
私達が日本を、世界を、前に進めていく。
6期目のAaltoに寄せて
ーAalto International CEO 福井 麻里子