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AI・データサイエンス分野での協働の可能性を探る【スイス先端技術セミナーレポート】
2020年5月29日(金)オンラインにて、スイス先端技術セミナー「データサイエンスとAIの融合」が開催され、参加者は400名を超えました。
日本ディープラーニング協会、在日スイス大使館 スイス・ビジネス・ハブ、スイス データインテンシブサービス連合、スイス研究開発センター、PwC スイスからスピーカーが登壇し、データサイエンスAIに関心を持つ企業経営者、経営企画担当者、新規事業担当者などが参加しました。
イベントに関して、スイス・ビジネス・ハブ 松田氏は「予想を超える参加者数、幅広い業界の担当者に出席いただき、AIやデータサイエンスへの関心の高さを実感しました。スピーカーへの直接の質問・回答も含めて、活発な議論が展開されました」と日本、スイスの両国の参加者のオンラインでの交流機会を評価しました。
セミナーの冒頭では、日本ディープラーニング協会岡田氏より『日本におけるAI人材の育成の必要性』が語られ、スイス・ビジネス・ハブ松田氏からは『世界のアイディアを繋ぐイノベーションが生まれる場所スイス』について、
スイス データインテンシブサービス連合ハイナッツ氏からは『スイスにおけるAIクラスターの状況』といったスイスのAI研究分野を巡るイノベーションを生む業界連合の取り組みが共有されました。
▲スイス・イノベーション・パークについて紹介する松田氏(スイス・ビジネス・ハブ)
AIをどこまで信頼できるか?リスクと信頼性、そして倫理。
スイス研究開発センターからは「AIに必要とされること」に関するプレゼンテーションが展開されました。AI技術によって、AIが膨大なデータを学習した後に、アルゴリズムによって自律的に答えを導き出すことができるようになり、ビジネスにおいても様々な応用例が考えられます。セミナーでは、AI時代に向かいつつある今、日本・スイスそれぞれにおける知見が展開されました。
スイス研究開発センターで、統合ワイヤレスシステム部長 データプログラムIoTモジュール担当を務めるドゥンバー氏はAIアルゴリズムの開発と検証方法に関して発表し、
「AIのアルゴリズムに必要なこととして、データ収集、ラベルづけ、実装、信頼性がなくてはなりません。特に、社会で活用するにあたっては、正確性、低電力、スピード、安全性、透明性、そして信頼性などが必要です」と述べました。
人が、AIをどこまで信頼できるのかについては、大きな課題とされています。AIが膨大なデータをもとに、自律的に答えを導くという特性上、思考のプロセスがブラックボックスになる恐れがあります。そのため、アルゴリズムに説明可能性が大きく問われます。
▲AIの信頼性について紹介するドゥンバー氏(スイス研究開発センター)
スイス研究開発センターのシステム部長データプライバシー&セキュリティモジュール担当を務めるゴンツァーロ氏は、信頼性を持たせたAIの事例として、スイスの研究機関と医師が共同でAI開発を実施した例を紹介。
ゴンツァーロ氏は、「信頼性のあるAIの開発には、データサイエンティスト、R&Dエンジニア、現場の専門家など、様々な立場の人と協働が必要です」と強調しました。
また、データプライバシーの課題に対して、大量のデータを保有するクラウドベースプロバイダーに頼るだけではなく、コンフィデンシャルコンピューティングや、デバイス側で自ら情報を収集するなど、様々な模索をしているとも言及されました。スイスでは、データエシックスを巡る議論が企業、研究、政府等の様々な立場の人々が参画して進められています。
▲医療現場でのExplainable AIの事例について紹介するゴンツァーロ氏(スイス研究開発センター)
他、PwC スイスのパートナー データ分析担当 ヴェステルマン氏は、AIの持つリスクについて、パフォーマンス、セキュリティ、コントロールの観点から論点を展開しました。
また、現場におけるAIの活用事例を示し、ドイツの医師と連携して、患者にとって適切な治療法をAIが提示するというAI活用の試みを紹介しました。80%のケースは患者にとって何が良い治療法かと医師が把握しているものの、20%は把握していないということから、医療現場で10年間で収集した30万人の患者の膨大なデータに基づき、AIが患者のデータに基づいて複数の治療法の可能性を示すことで、医師の意思決定をサポートし、患者にとっての個別化医療を実現する可能性を示しました。
スイスでの先進的な事例
約830万の人口ながら、教育への積極的な投資により、高度人材の集積地となっているスイスは、欧州全体から先進技術分野の研究者が集まっている。日本ディープラーニング協会の岡田氏は「エンジニアに加えて、ディープラーニングの基礎知識をもち、適切な活用方針を決定し、事業に応用していくことができる人材の育成は重要です。研究や議論が進んでいるヨーロッパにも学ぶことがあります」と述べました。
先端研究が行われている拠点として、工科大学などの教育研究機関のほか、民間企業向けにも、スイス・イノベーション・パーク(パーク・ネットワーク・ウエストEPFL、パーク・チューリヒなど)が設けられています。そこで行われている研究として、ローザンヌを拠点とするEPFLの研究のひとつで、ロボットが自ら家具を生成するRoombotsや、チューリヒではETHのスピンオフの無人ロボットANYboticsなど先端の技術研究が進んでおり、世界的にも注目されています。
また、スイスと海外とのAI分野での国際間での協働例として、シンガポール企業からスイス企業へ海運分野でのリスク評価アルゴリズムの見直しの例が紹介されました。本プロジェクトでは、これまでの評価法ではなく、より説明可能性が高いバランスの取れたアルゴリズムを開発することによって、より信頼性のあるリスク管理ができるようになったという協働の可能性を示すものでした。
日本とスイスのAI・データサイエンス分野における協働の次のステップ
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部長 松田俊宏氏は、
「世界のイノベーションセンターは、シリコンバレーの一極集中の時代から、地域の強みを生かした多拠点のハブが連携して取り組む時代へと移行しています。この流れは、コロナ禍を経て一層顕著になると見ています。
スイスでは、欧州大陸でもっとも先進的な大学をベースに世界レベルの研究所、企業が連携した新技術、製品開発のイノベーションが沸き起こっています。なかでも、AIはまさに最も注目されている技術で、実際、Googleは北米外で最大の研究開発センターをチューリヒに置いています。
この動きをきっかけに世界中の大企業、中小企業、スタートアップがスイスに集積しはじめています。世界的な潮流としても、今後の事業・研究拠点として、スイスは一つの重要な要となるでしょう」とコメントしています。
また、スイスの研究機関や企業とのネットワーキングの機会として、2020年6月26日に、スイス データインテンシブサービス連合が主催するSwiss Data Science Conference 2020 (SDS2020)が予定されています。スイスのデータサイエンス関係者が集うイベントとなっており、オンライン開催のため日本企業も参加可能です。
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部は、日本とスイス間の協働、オープンイノベーションを促進するミッションを担っています。
AI・データサイエンス関係のスイスの研究機関や企業との協働の可能性については、
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部へご相談ください。
2020年5月29日スイス先端技術セミナーの録画はこちらからご覧いただけます。
企業・組織が抱える課題解決に、AIの活用は欠かせなくなっています。AI技術研究、社会への実装、倫理的な議論の先進をゆくスイスは、グローバルでのAI分野を牽引しつつあり、国際的な協業の実績も多く、積極的です。日本企業は、AIの活用先である出口産業を持っていることからも、今後の協業の発展に期待を寄せています。
(Aalto International: 福井 麻里子)